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神戸地方裁判所 昭和28年(ワ)27号 判決 1954年11月08日

原告 串田不諭二

<外一名>

右代理人 関口緝

被告 山本文子

右代理人 中村俊夫

主文

原告らの請求をいずれも棄却す。訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告は、原告串田に対し金五万円とこれに対する昭和二十四年十一月六日より、原告納に対し金五万五千円とこれに対する同年九月十八日よりいずれも支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、

その請求原因として、

「(一) 原告串田は、昭和二十四年十月十六日訴外吉田一夫に対し金五万円を弁済期日同年十一月五日の定めで貸与し、被告は、同日右借金債務につき連帯保証をなし、右訴外人及び被告は同日右借受金の支払方法として原告串田に対し金額五万円、満期同年十一月五日と定めた約束手形一通を振出し交付した。

(二) 原告納は、昭和二十四年八月十七日右訴外人に対し金五万五千円を弁済期日同年九月十七日の定めで貸与し、被告は、同日右借金債務につき連帯保証をなし、同日右訴外人は、右借受金の支払方法として原告納に対し被告の裏書(被裏書人の記載は白地)にかかる金額五万五千円、満期同年九月十七日と定めた約束手形一通を振出し交付した。

(三) しかるに、右訴外人及び被告は、右各手形金の支払をなさず、すなわち、右各借受金の支払をなさなかつた。

(四) よつて、被告に対し原告串田は、右貸金五万円とこれに対する弁済期日の翌日である昭和二十四年十一月六日より原告納は、右貸金五万五千円とこれに対する弁済期日の翌日である同年九月十八日より、いずれも支払ずみに至るまで民法の定める年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴各請求に及んだ次第である。

と述べ、

予備的請求原因として、

「(1) 仮に、前記のように、被告が右訴外人の前記各借金債務につき連帯保証をしたことが認定せられないとするも、被告は右訴外人の実姉であるが、原告らと右訴外人との本件各消費貸借成立の直前、それぞれ原告ら方に来て、原告らに対し右訴外人に金員の貸与方を懇請し、且つ貸与の上は被告において後日原告らに迷惑をかけぬと口添をし、その直後右訴がそれぞれ原告ら方に来て、原告ら主張の各約束手形を原告らに差入れた上、本件各借受金を借受けるに至つたものである。右の各事実関係によれば、被告は、右訴外人の本件各借金債務に対する被告の各連帯保証行為(原告らと被告間の各連帯保証契約)につき、被告を代理する権限を右訴外人に与えた旨を原告らにそれぞれ表示し、且つ右訴外人は原告らとそれぞれ被告の代理人として右各連帯保証契約を締結したものであるというべきであるから、民法第百九条の規定によつて被告は、右各連帯保証契約につきその責に任ずべきである。よつて、原告らは第二次的に、右各連帯保証人としての責任ある被告に対し本訴各請求をする。

(2) 仮に、右第二次的請求原因が認定せられないとするも、被告の実姉である右訴外人は、本件各消費貸借成立当時、常に被告方に出入し、被告よりその実印を借受け、これを使用して被告の代理人として配給物資の配給を受けていたものであり、又その以前右訴外人は原告らからそれぞれ金員(本件各借金とは別口)を借受けたことがあるが、その都度被告は、その各連帯保証行為の代理権を右訴外人に授与し、右訴外人においてそれぞれ被告の代理人として原告らと各連帯保証契約を結んだことがある。すなわち、右訴外人は、本件各消費貸借成立当時配給物資受領につき被告を代理する権限を有し又その以前に、前記各連帯保証行為につき被告を代理する権限を有していたことがあるから、仮に被告が本件各連帯保証行為につき、右訴外人に対し代理権限を附与していなかつたとするも、前記(1)において主張したように、右訴外人は、原告らとの間において本件各貸金債務につき、それぞれ被告の代理人として各連帯保証行為をなしたものとみるべきであるところ、右各事実に前記(1)において主張した事実を合せて考察すると、原告らは、それぞれ右訴外人の右権限外の各行為につき右訴外人に代理権限ありと信ずべき正当の理由があつたものというべきであるから、被告は、右訴外人が被告の代理人としてなした右各連帯保証行為につき責任を負うべきである。よつて、原告らは、それぞれ被告に対し第三次的に、右理由を請求原因として本訴請求をする。」

と述べ、≪中略≫

被告訴訟代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として、

「(一) 原告ら主張の各第一次的請求原因事実のうち、訴外増田佐平の各関係部分は知らない、被告の各関係部分は全部否認する。

(二) 原告ら主張の(1)及び(2)の各事実のうち、被告と右訴外人の身分関係が原告らの主張の如くであることは認めるが、右訴外人が原告らからその主張のような各借金をしたかどうかは知らない、その余の原告ら主張の事実は全部否認する。

(三) 仮に、被告が原告ら主張の右訴外人の原告らに対する本件各借金債務につき保証責任があるとするも、それは単なる保証債務であつて、連帯保証債務ではない。

(四) 以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、いずれも失当である。」

と述べ、≪中略≫

当裁判所は、職権によつて、原告串田不諭二本人(第二回)及び被告本人(第二回)を尋問した。

理由

第一、原告らの第一次的請求原因について

証人吉田一夫の証言により真正に成立したと認める乙第一号証の一ないし三、同証言被告本人尋問(第一、二回)の結果、原告ら各本人尋問(原告串田本人は第一回)の結果の一部に甲第一、二号証、乙第四号証を合せ考えると、原告串田は、昭和二十四年八月二十五日被告の実弟である訴外吉田一夫に対し金十万円を弁済期日同年九月二十日の定めで貸与したが、右訴外人は、右弁済期日に元金の内金五万円を支払つたので、同日同原告と右訴外人間において、残元金五万円につき弁済期日を同年十月十六日と定め、その弁済方法として金額五万円満期右弁済期日と定めた右訴外人及び被告の共同振出にかかる同原告宛の約束手形一通(すなわち乙第四号証、但し、同手形中、被告の関係部分は、右訴外人が偽造したものである。)を振出したが、右満期日に右訴外人は右手形金(すなわち右残元金)の支払をしなかつたので、同日同原告と右訴外人間において再び弁済期日を同年十一月五日と認め、右約束手形を書替え、金額五万円、満期右弁済期日と定めた前同様の右訴外人及び被告の共同振出にかかる同原告宛の約束手形一通(すなわち、甲第一号証、但し同手形中、被告の関係部分は、右訴外人が偽造したものである。)を振出したが、右訴外人は右手形金(すなわち右残元金)の支払をしなかつたものであること、同原告主張の前記(一)の金五万円の貸金は、右残元金五万円の貸金を指称するものであること、原告納は、右訴外人に対し昭和二十三年八月十二日に金四万円、その翌日に金一万円、同年九月一日に金八万円、同月二十四日に金一万円、同年十月五日に金三万円同月六日に金五千円を各貸与しその後数回に右貸付元金の一部弁済を受けて、昭和二十四年八月十七日現在で右各貸金の残元金は、合計金五万五千円となつたので、同日同原告と右訴外人間において右残元金につき、弁済期日を同年九月十七日と定めその弁済方法として、右訴外人は、右残元金を金額とし、満期を右弁済期日とし、被告の裏書(被裏書人の記載は白地)にかかる約束手形一通(すなわち甲第二号証、但し、同手形中、被告の関係部分は、右訴外人が偽造したものである。)を同原告宛振出したが右訴外人は、右手形金(すなわち、右残元金)の支払をしなかつたものであること、同原告主張の前記(二)の金五万五千円の貸金は、右残元金五万五千円の貸金を指称するものであること、右訴外人の原告らに対する右各借金債務については、被告は連帯保証した事実は全然なく、右各手形の被告各関係部分は、右訴外人がその振出の都度被告の印章を勝手に使用して偽造したものであることが認められ、証人串田文子、同納たき子の各証言、原告ら各本人尋問(原告串田本人は第一、二回)の結果中右認定に反する部分はいずれも前記各証拠に照して、信用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定のように、被告は、右訴外人の原告らに対する右各借金債務につき、連帯保証したものでないから、原告らの各第一次的請求原因に基く本訴各請求は失当である。

第二、原告らの第二次請求原因(原告ら主張の(1))について

原告らは、被告が本件各消費貸借成立の直前、それぞれ原告ら方に来て、原告らに対し右訴外人に金員の貸与方を懇請し、且つ貸与の上は被告において後日原告らに迷惑をかけぬ旨口添したと各主張するけれども、前記証人串田文子、同納たき子の各証言及び原告ら各本人尋問(原告串田本人は第一回)の結果中、右各主張事実に照応する部分は、いずれも前記証人吉田一夫の証言及び被告本人尋問(第一、二回)の結果に照して信用し難く(右証人吉田一夫の証言及び右被告本人尋問(第一、二回)の結果によれば、原告らが右訴外人に対し本件以外の別口の貸金をそれぞれ貸付けた際、被告は原告ら方に赴き原告らに対し右訴外人に貸与方を懇請したことがある事実が認められるに過ぎない。)、原告ら主張の各約束手形が原告ら宛にそれぞれ振出されたことは前記認定のとおりであるが、その各振出されるに至つたいきさつ及び右各手形中被告の各関係部分が偽造にかかることは前記認定のとおりであり、他に被告が、原告らに対し、原告ら主張の各連帯保証行為につき、右訴外人に代理権を与えた旨を表示した事実を認めるに足る証拠はない。故にこの事実を前提とする原告らの第二次的請求原因に基く本訴各請求もまたその余の点について判断するまでもなく失当である。

第三、原告ら第三次的請求原因(原告ら主張の(2))について

前記証人吉田一夫の証言、原被告各本人尋問の結果(但し、原告串田本人及び被告本人は各第一回、原告らの分はいずれも一部)及び弁論の全趣旨を総合すれば、昭和二十四年八月十七日(前記認定のように原告納と訴外増田佐平間において、前記残貸金五万五千円――同原告が本訴で主張する本件貸金五万五千円――につき、最後の弁済期日を定め且つ前記甲第二号証の約束手形が振出された日)及び同年十月十六日(前記認定のように、原告串田と右訴外人間において、前記残貸金五万円――同原告が本訴で主張する本件貸金五万円――につき、最後の弁済期日を定め、且つ前記甲第一号証の約束手形が振出された日)の各当時、被告の実弟である右訴外人は、被告と同様洲本市内に居住し、常に被告方に出入し、被告より被告の代理人として被告の認印(当時被告が日常の家事に関し使用するため、自己のすずり箱に入れていたもの)を使用して、被告名義で配給所からみそ、しよう油等の配給物の配給を受ける権限を付与せられていたこと、しかし、原告らはいずれも前記各日時当時は右事実を知らなかつたこと、当時原告らは、いずれも洲本市において、被告から賃借していた各家屋にそれぞれ居住していたのであるが、その各保管にかかる各家賃通帳に家賃受領の趣旨で被告が従来押捺した被告の各印影は、原告串田については、前記乙第四号証及び甲第一号証の各約束手形中の被告の各印影と、又原告納については、前記甲第二号証の約束手形中の被告の各印影とそれぞれ同一のものであつて、右各印影は、すべて前記被告の認印を押して顕出されたものであること、右各手形中の被告各関係部分は、いずれも右訴外人が原告らをして被告において本件各貸金につき連帯保証したものと誤信せしめるため、前記認印をほしいままに使用して偽造したものであること(右偽造の点は、前段認定したところである。)、原告串田が前記認定のように前記昭和二十四年十月十六日右訴外人と本件貸金五万円につき、最後の弁済期日を定め、甲第一号証の約束手形の振出交付を受けた際、右訴外人は、同原告に対し被告が連帯保証した旨を告知し、且つ前記のように乙第一号証及び甲第一号証の各約束手形中の被告の各印影が前記家賃通帳中の被告の印影と同一のものであつたので、同原告は、被告において、右貸金につき、適法に連帯保証をなし、且つその連帯保証の趣旨で適法に右訴外人と共同して右甲第一号証の約束手形を振出したものであると確信していたこと、原告納もまた、前記認定のように、前記昭和二十四年八月十七日右訴外人と本件貸金五万五千円につき、最後の弁済期日を定め、甲第二号証の約束手形の振出交付を受けた際、右訴外人が同原告に対し被告が連帯保証した旨告知し且つ前記のように右約束手形中の被告の各印影と前記家賃通帳中の被告の印影と同一のものであつたので、同原告は、被告において、右貸金につき適法に連帯保証をなし、且つその連帯保証の趣旨で、適法に右約束手形に裏書したものであると確信していたことが認められ、前記証人串田文子、同納たき子の各証言及び原告各本人尋問(原告串田本人は第一回)の結果中、右認定に反する部分は、いずれも前記各証拠に照して信用をおき難く、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

原告らは「右訴外増田佐平が本件各消費貸借以前に、原告らからそれぞれ金員(本件各借金とは別口)を借受けた際も被告はその連帯保証行為の代理権を右訴外人に授与し、よつて、右訴外人において、それぞれ被告の代理人として原告らと各連帯保証契約を結んだことがあつた。」と主張するけれども、右事実を認めるに足る証拠はない。

しかして、右認定の事実関係によれば、前記昭和二十四年八月十七日(原告納と訴外吉田一夫が本件貸金五万五千円につき最後の弁済期日を定め、前記甲第二号証の約束手形が振出された日)及び前記同年十月十六日(原告串田と右訴外人が本件貸金五万円につき最後の弁済期日を定め、前記甲第一号証の約束手形が振出された日)の各当時、被告の弟である右訴外人は、被告より、被告の代理人として、被告の認印を使用して被告名義で配給所からみそ、しよう油等の配給を受ける権限を与えられていたものであるところ、ほしいままに、被告において本件各貸金につき連帯保証をしたものとしなす趣旨の下に、右権限を越えて、被告の右認印を使用し、被告名義をもつて、前記甲第一、二号証の各約束手形につき、前記被告関係の各手形行為をなしたものであり、当時原告らは、それぞれ自己の右訴外人に対する本件各貸金につき、被告自身がそれぞれ適法に連帯保証をなし、且つその趣旨で前記各手形行為をなしたものであると確信していたものである。

思うに、民法第百十条の規定は、代理人がその有する権限を越えて代理行為をしたことを前提とするものであるから、同規定が適用されるためには、当該代理行為の当時において、その相手方が代理人の行為であることを認識し、且つその代理人がその行為につき正当権限を有するものであることを信じた場合でなければならぬと解するを相当とする。

今本件につき、これをみると、前記認定の事実によれば、原告らは、いずれも前記各日時当時、右訴外人に前記配給物の配給受領の代理権あることを全然知らず、右訴外人が前記趣旨の下に、前記権限を越えて被告の印章を使用してなした被告名義の各手形行為を右訴外人のなした行為とは全然認識せず、むしろ、本件各貸金に対する被告の各連帯保証及び前記各手形における被告の各手形行為は、いずれも被告自身がなしたものであると確信していたものというべきである。すなわち、本件においては、原告らはいずれも右訴外人の前記各権限ゆ越行為当時その各行為が、右訴外人により、被告の代理行為としてなされたものであることの認識を全然有していなかつたものである。されば、民法第百十条の規定に関する前記説示により、本件の場合は、同規定の適用の余地はないものといわなければならない。

以上の次第であるから、原告の第三次的請求原因に基く本訴各請求もまた失当である。

第四、結論

以上のように、原告らの被告に対する本訴各請求は、いずれも失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 安部覚)

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